2005年11月08日

田中正造(1841-1913)…日本/足尾銅山鉱毒反対運動の指導者

<天は助けず>

●逮捕・有罪:田中の場合

直訴までして足尾銅山鉱毒事件と闘ったことで知られる田中正造は、逮捕と入獄を度々経験している。28歳で入獄11か月、31歳 で2年9 か月、44歳で3か月、62歳で41日間。

最初の入獄は役人や領主の不正を指摘したのが原因だ。田中が明治維新を迎えたのはこの収監中だが、江戸が明治になっても、政府に楯突く人間には、不当な逮捕が繰り返された。2度目の逮捕は圧政に反対したためで、その次 は上役暗殺を疑われて投獄(後に冤罪確定) 。最後の投獄は川俣事件(足 尾銅山被害者の大挙上京請願運動が大弾圧を受けた事件)の裁判中、誠意のない検事に抗議を示すアクビが官吏侮辱罪となったためだ。

3度目の獄中で、田中はスマイルズの世界的ベストセラー『西国立志編』( 『自助論』)を読む。「天は自ら助くるものを助く」で知られるこの書は「勤勉、忍耐、節約などの美徳で人生を切り拓くことができる」という自己啓発書。要するに「マジメに頑張ってりゃ成果がありますよ」というもの。

スマイルズの思想に影響された田中は、彼の書にあるとおり、普遍的な人間道徳に基盤をおいた。そして彼は、法のための法でなく、人類の良心を憲法だと考え、そこに政治規範を求めた。

ただし、『西国立志編』の評価は下がっている。このテの本がありがちになったうえ、「マジメに頑張っても成果があるとは限らない」ことが判明してきたからだろう。残念ながら、田中はその好例となった。

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●人生のポイント

大アクビで捕らえられた最後の入獄時、田中は差し入れの聖書を読んだ。「聖書を読むよりはまず聖書を実践せよ」と日記に記し、一時は改宗をも考えるほどキリスト教への信仰心を強めた。獄中というのは感化されやすい空間なのかもしれないし、人道を身につけるには世間より適切な場所なのかもしれない。

ただし、田中は単なる「神頼み」としてのみでなく、信仰心が味方になると考えてもいたようだ。鉱毒調査を行った内村鑑三らをはじめとして、支援者にはキリシタンが多く、田中が彼らと交わる機会は頻繁だった。毎号のように谷中村問題を取り上げるキリスト教系の雑誌もあった。

が、足尾銅山鉱毒反対運動は、無残な失敗に終わった。

議員を辞し、命賭けで行った田中の直訴に世論は沸いた。支援活動も活発化したが、間もなく世間の関心は日露戦争に持っていかれた。住居の強制破壊までやって立ち退きを促す政府に対し、田中は残留民とともに谷中村に小屋を建て、汚染地帯に住み込むが、それまでの味方は次々と田中を裏切った。

絶命した田中の枕元に遺されたのは、綴じ合わせられた帝国憲法と聖書だった。憲法と聖書だなんて水と油みたいだけど、晩年の彼にとっては、いずれも戦いの武器であり、道徳的精神のよりどころだった。死の半年前、彼は残留民たちに「神は谷中にあり」と手紙を書き送ったが、田中の死後、残留民は毒浸しの故郷を逃れる他、何ひとつ手がなかった。神は毒死した。

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●もし逮捕されなかったら

幸徳秋水や『毎日新聞』主筆に直訴を提案された田中、「エーッ、だって江戸時代そのやり方やった人って家族ごと処刑されたんでしょ? 名主生まれの俺が警察沙汰になんかなっちゃったらみっともなーい」と思いつつ、おそるおそる直訴煽動ビラを作成。狙い通りとまでは行かなくとも足尾銅山反対運動は激化し、鉱毒被害者たちは大勢逮捕され強行に家宅捜索される。と、自分たちは「野心家の田中正造が手を汚さないで名声を得るための道具にされた」の流言に引きずられ、被害者たちの間で内ゲバの嵐、鉱毒反対の運動団体は雲散霧消。尊敬し続けた大隈重信に「鉱業は停止すべきでない」と諭され、田中も「彼がいうんならそうかもな」なんて考え始める。
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posted by 73 at 23:59| Comment(1) | TrackBack(0) | 逮捕・有罪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
田中正造・・啄木と正造の関係をもう少し知りたい。
旭川の「ときわ短歌」に啄木論を連載している最中なので。

「苫小牧市民文芸」に「苫小牧地方文学史」をれんさいしてます。晩年の私の仕事です。
Posted by 根保孝栄・石塚邦男 at 2018年12月24日 03:43
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