2005年12月13日

ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ(1749‐1832)…ドイツ/詩人、小説家、美術研究家、政治家、自然科学者

<発禁されたりしてみたり>

●発禁:ゲーテの場合

ゲーテとドイツ人の関係は、富士山と日本人の関係と同じだといわれる。「富士山なんて今さら知ったこっちゃない」という日本人も山ほどいるだろってのはおいといて、「ドイツ人のシンボル」たるゲーテの名が初めて世界に知れ渡ったのは、小説『若きウェルテルの悩み(以下、ウェルテル)』による。

『ウェルテル』を一言でいうなら、婚約中の女を好きになった男が自殺した、という三面記事並みのストーリー。これが1774年の秋に出版されると、ブルーのフロックコート、黄褐色の皮のベスト、膝丈の黄色いズボンの主人公に倣ったウェルテルファッション(変!)が信じ難いことに大流行し、傍らに『ウェルテル』を置いて自殺を図る青年男女が続出した。

ドイツではこの作品をめぐって激しい議論が巻き起こった。「この本は自殺の弁明書だ」と非難が生じ、「人間は誰もが自分自身の生の主人である」という主張にキリスト教会は頭を痛めた。作品の擁護者たちは弾劾され、国家の敵とまで呼ばれた。

ライプツィヒでは大学神学部がこの本を弾劾し、書籍販売業者に対し罰金刑を課すと脅して販売を禁じた。コペンハーゲン大学神学部もデンマーク語訳の印刷を禁止した。これらに反駁が起こり、擁護論が書かれ、模倣作品や翻訳が出版された。

『ウェルテル』の元ネタは人妻に失恋して自殺した友人と、ゲーテ自らの傷心体験。とはいえ、「こんな陳腐な話でここまで騒動を呼べる」ということのほうがビックリ、という気がしなくもない。

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● 人生のポイント

『ウェルテル』が人々に与えた影響には、ゲーテ自身も驚いた。「それは私が受けた影響の正反対だった……(それを書き終えた)私はあたかも総告解のあとのように、再び明るく自由な気分になり、新たな人生に踏み出す姿勢が整ったと感じたのだ」。要するに、当人は書くことでスッキリしたのだ。

ただし、「文学作品は測り難ければ測り難いほど、知性で理解できなければ理解できないほど、それだけすぐれた作品になる」といったゲーテ、わかりやすい『ウェルテル』を、「すぐれた作品」だと思っていたかはわからない。

わずか4週間で一気に書き上げられた『ウェルテル』に対し、構想段階を含めれば60年以上が費やされたという『ファウスト』。晩年にこの第二部を書き上げたゲーテは、それを封印し、死後に発表されるように手はずを整えた。『ウェルテル』と異なり、こちらは彼自ら、自分の目の黒いうちは発売禁止、にしたのだ。

さて、ゲーテが死に『ファウスト』第二部が発表された。伝説の魔術師ファウストをモデルとした作品は多数あるが、ハッピーエンドっぽく見える結末はゲーテのもののみ。難解さも手伝って、当然あちこちで議論が生ずる。

が、もちろん、亡き人に疑問を尋ねることはできない。

多くの人が「分からない文学作品は優れている」と考えがちである。その後、『ファウスト』は「ゲーテの最高傑作」という評価を得る……ゲーテの思惑通りのような気がする。

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● もし発禁にならなければ

著作権の概念がなかったため無断出版・無断翻訳も多く、印税がなくても生活費に困らぬゲーテにとって『ウェルテル』が発禁になろうがなるまいが、どっちでもよかった。が、自らの恋愛感情を押し通すより、自分は引き下がって愛する人の幸せな結婚生活を望んだ『ウェルテル』は、まさにキリスト教的精神の鑑、とする解釈が現れると、恋に無縁な牧師や修道女の間で『ウェルテル』が読み継がれ、教会内は恋に恋する聖職者で溢れる。晩年は『ファウスト』を早く発表したため、著者に不明点への問い合わせが殺到。老体に鞭打って受け答えをしようとするゲーテ、客人との対話に疲れ「もっと静寂を」と言い残し、とっとと息を引き取る。
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posted by 73 at 23:59| Comment(5) | TrackBack(0) | 発禁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
非常に興味深く読ませていただきました。
ゲーテ、ムンク、ヘッセなど参考文献を教えてくださいませんか?
私も読みたくなってまいりました。
よろしくお願いします。
Posted by urineko at 2011年10月05日 08:45
ゲーテの「ウェルテルの悩み」あの時代、ベストセラーだったわけですね。
Posted by 根保孝栄・石塚邦男 at 2015年08月21日 00:13
ドイツにおいてのゲーテは特別の存在。
ドイツが誇る文豪であり、ドイツの知性の代表格ですね。
Posted by 根保孝栄・石塚邦男 at 2016年01月20日 10:45
ケー手はドイツ人にとっては日本人の富士山みたい?比較がずれている。今なら日本人の村上春樹か・・・くらいに言ってほしい。
Posted by 根保孝栄・石塚邦男 at 2016年04月02日 21:18
婚約中の女性に恋をして悩みぬいた末に自殺した男の話なのだが、何でこんなに読まれたのか・・・時代のためかな。
Posted by 根保孝栄・石塚邦男 at 2016年08月23日 15:55
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