2005年09月13日

エドワルド・ムンク(1863-1944)…ノルウェー/画家

<狂人だけがこの絵を描ける>

●精神病:ムンクの場合

『叫び』で知られるムンクが、治療が必要なほどにはっきりと精神を病んだのは、45歳前後のこととされる。

きっかけは恋愛のもつれから始まった。ムンクは35歳のとき、ワイン商の娘マティルデ(通称トゥラ)・ラルセンと出会う。彼女はムンクのモデル兼恋人となって、結婚を迫るようになる。

自由を愛したムンクは、生涯誰とも結婚するつもりがなかったので、結婚の提案を度々断った。トゥラはムンクの友人たちに協力を仰ぎ、恋人と2人きりになることに成功すると、ピストルを使って狂言自殺を演じる。あわてたムンクがトゥラの手からピストルを奪おうとしたところで暴発。弾丸は、ムンクの左手中指を吹き飛ばした。

裸体のトゥラをモデルとした『罪』は、事件の前の年に作成された石版画だ。わずか二色で刷られたこの画は、見る者に複雑かつ壮絶な恐怖感を感じさせる。これを作りながら、ムンクはすでに来るべき何かを予感していたようにも思える。傷を負った彼に対し、仲間たちの多くがトゥラの味方をしたので、ムンクは大勢の友人と喧嘩になり、絶交した。

やがて、ムンクの精神は異常をきたし始める。すべての人間が自分に陰謀をたくらんでいるのではないかという強迫観念や幻覚に襲われ、アルコールに溺れる。ボロボロになった彼はあてどなく旅し、神経性の病に倒れることもあった。旅先のコペンハーゲンで3日3番痛飲した彼は、ついに自ら精神病院に入院する。

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●人生のポイント

「入院で健全を得た代わり、天才を失った」といわれるムンクの絵は1907〜9年を境に、同一人物の作品とは思えないほど大きく変化している。彼が病院生活を過ごしたのは、45〜46歳の時であり、この時期が彼の入院期間に当たる。

つまり。精神病になる過程でなく、治療の段階で彼の絵は変わったのだ。『病める子』『叫び』『マドンナ』『不安』といった、人間の内面世界を視覚化することで衝撃を与える、いわゆる「ムンクらしい」作品は、入院以前に集中している。

精神病院での生活は快適で、外出も自由だったので、ムンクにとってそこはよい仕事場となった。「自己の体験を描くことが薬になる」というパトロンの言葉どおりに彼は描き、病から脱していった。

退院後、ムンクの作品は「ムンクらしくない」ものになった。「苦しみを取り除いてしまえば、私の芸術は破壊されてしまう」「芸術は自然の反対である」「芸術作品は人間の内部からのみ生まれる」と述べたはずのムンクは、自らの発言をないがしろにするかのように、朗らかで陽光が溢れ、生命への賛美に満ち、幸福を感じさせる健全な絵を次々と仕上げ、自然物のみを描くことも多くなった。

これらの絵は「駄作」とされがちだ。が、退院後の7年間を、ムンクは生涯でもっとも幸せと安らぎの中に生きた。

入院以前の彼を「死におののく異常感覚者扱いしすぎ」という意見は一理あるだろう。それでも、代表作『叫び』の油絵版に記された、「狂人だけがこの絵を描ける」というムンクの言葉と、入退院により彼の絵が一変したという事実は揺らがない。

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●もし精神病にならなければ

事件後に精神病が発症しなかったら:左手のなくした箇所を題材にした『指』、その後の気ままな放浪を描いた『旅』を完成。『叫び』『指』『旅』は三美作と呼ばれるようになる。精神病になった妹の気持ちをヒトゴトのように感じつつも、彼女を題材にした作品を矢継ぎ早に発表。常に人の体から妙な色の人魂みたいなものが記されたこれらの作品は、以前完成させた「生命のフリーズ」の続編と「精神のフリーズ」としてまとめられる。

はじめから彼にまったく狂気がなかったら:彼の作品は「狂気の沙汰」といわれて批評家たちに大顰蹙を買うことも、ナチスに頽廃芸術の烙印を押されることもなくホドホドの評価を受ける。「よくありがちな画家」としてテキトーな活躍ぶりをみせて彼が一生を終えると、作品も彼自身も時代とともに忘れ去られる。munch.jpg


posted by 73 at 12:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 精神病 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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