2010年04月22日

アルベール・カミュ(1913‐60)…フランス/小説家、劇作家

<女も口実>

・離婚:カミュの場合

カミュが21歳のときに初めて結婚したシモーヌ・イエは、もともとカミュの友人のフィアンセであり、人の目を惹く大変な美人だった。カミュの仲間が証言するところによると「僕たちはみんな、彼女に少し惚れていた」。通りを歩けば男たちは、最新流行の服を着たシモーヌのしなやかな体に、赤みを帯びたブロンドの髪に見とれた。恐ろしくつばの広い帽子、踵の高いハイヒール、極端に長いパイプなど、その華美な服装はしばしば場違いな状況も多かったようだ。


風変わりで、気まぐれで、誇張癖のある女性だったといわれるシモーヌは、14歳のとき月経痛を鎮めるためにモルヒネを使ったことがきっかけで、麻薬常用者になっていた。結婚後も、シモーヌの態度や着るものは突飛さを増していくばかりで、同じ服を二度着ることはめったになく、ドレスの下にはいつも、なにひとつ身につけていなかった。カミュの家に夕食に招かれた仲間は、透明に近い薄手の服を下着なしに身につけたシモーヌの挑発を語っている。こうした奇行や入院により、結婚生活はすさんでいく。

また、以前からシモーヌは、麻薬を手に入れるために若い医者に色目を使い、体を提供していると噂されていた。かみ合わなくなった二人の関係を立て直すため、友人とカミュ夫妻三人で旅に出たとき、カミュは宿泊先に届いたシモーヌ宛ての手紙を開封した。そこには医者からの麻薬提供の申し出と、シモーヌと手紙の差出人の仲が、患者と医者の関係を越えた深いものであることが読み取れた。

このときにカミュは、シモーヌとの別れを決めた。


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・人生のポイント

カミュには人生の早いうちから、世界は自分の思い通りにならないと認識せざるを得なかった。幼い頃に父を亡くし、母はほとんど口を利けず、目の前に広がるのは移民たちの貧しい生活。当時不治の病とされた結核の診断も受けている。


そんなカミュにとって、幸福の源泉となりそうなのは、恋愛だった。カミュは常に女友達に恵まれていた。シモーヌとの生活が破綻し始めたときにも女友達二人と共同生活をする。演劇活動のため、ファンの若い美人をあちこちでスカウトするのを楽しみ、二度目の結婚後も、大勢愛人がいたと噂されている。


が、カミュはただ自分の利欲のためだけに女たちと交際したのではない。離婚後、カミュは死ぬまでシモーヌを助けるよう懇願されるが、援助を渋ったことは一度もなかった。親しい女性たちとは、最後まで親交があったが、相手に溺れたり、盲目的に追い求めるような付き合いはせず、理性を失うことはなかった。


カミュにとっての幸福は、世界が思い通りはならないという真実を明晰に見通すことであり、死を前にしたとき、充実した生を送ったという自負を持つことだった。
「大切なことはただ、幸福への意志であり、いつも現存しているある種の巨大な意識なんだ。あとは、女にしろ、芸術作品にしろ、世俗的な成功にしろ、口実でしかない」(『幸福な死』)と記されている通り、女性は安定した幸福をもたらす絶対的な存在ではない、とカミュは思っていた。こうした考えは、シモーヌの存在によって、強い確信となったように見える。


結婚も共産党への入党も、カミュにとっては生をより謳歌し明晰さを保ちながら生きるための手段でしかなかった。だからこそ、離婚も除党も、カミュから幸福を奪うことにはならなかったのである。

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・もし離婚していなければ

「世の中は思い通りにいかない」ことには気づいたカミュは、妻シモーヌへの愛によって自分自身の生を謳歌することを自らに誓う。以来、シモーヌを神のように崇め、妻の身勝手から生まれる自分の苦しみを、すべて与えられた試練として受け止める。麻薬を提供する医者と次々肉体関係を持つ妻の奔放さも、自分の至らなさの証だと考え、ひたすらわが身を責める。

こうした辛い結婚生活を送るカミュに同情し、次から次へと言い寄る女たちが現れる。カミュは彼女らに泣き言は打ち明けるが、最後までシモーヌ一筋を貫き、浮気は自制。男を振り回し好き勝手やりたい放題の妻を理想の女性像、ひたすら妻に尽くし禁欲的に生きる自分を理想の男性像と考えるようになる。

やがて、気の触れた妻を介護しながら、自由を謳歌する美しい外見の女性が狂気じみてゆく過程と、結婚生活に翻弄され自らの能力をすべて妻に捧げる男性の悲しみを、持ち前の文章力を生かして小説中に美しく昇華することに生きる糧を見出す。後年はフェミニストたちにとっての模範的男性作家として、不動の地位を獲得。
albert camus.JPG


posted by 73 at 23:52| Comment(6) | TrackBack(0) | 離婚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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